最近、F1で『トラックリミット』に対する判定が厳しくなったように感じます。トラックリミットとは、定められた走路(トラック)の外を走行してはならないというルールのことです。
国内のモータースポーツにおいては、『走路外走行』と呼ばれます。サーキットによっては『四輪脱輪走行』、略して『四脱(よんだつ)』と呼ぶこともあります。
なぜ、トラックリミットを監視しているのかと言うと、走路をショートカットするなどしてタイムアップなどのアドバンテージを得ることを防いでいます。モータースポーツは競技なので、定められた走路以外を意図的に走行するとトラックリミット違反と判定され、ペナルティが科される場合があります。
F1ではトラックリミット違反を犯したドライバーに対して、フリー走行や公式予選ではトラックリミット違反をした周回のラップタイムを抹消したり、決勝では複数回の違反をしたドライバーに対してタイムペナルティが科されることになっています。
2020年F1第10戦ロシアGPではトラックリミットをしたドライバーは走路外の定められたルートを走行してコースへ復帰することが義務付けられ、話題になりました。
国際モータースポーツ競技規則 付則L項
トラックリミットはレギュレーションでどのように記載されているのか確認したいと思います。走路外走行は『国際モータースポーツ競技規則 付則L項』の第4章に記載されています。
サーキットのコース両端に白線がひかれており、この白線の内側が走路と定められています。車両がわずかでも白線の上を走行していれば、走路内と判定されます。言い換えると、タイヤが1本でも白線を踏んでいれば、走路外走行と判定されることはありません。
また、コースの端に赤や白などの色で縞々にペイントされた縁石が設置されていますが、縁石は走路とは認められていません。これが、FIAが定めるすべての四輪モータースポーツに対して適用される共通のレギュレーションとなっています。
#SUPERGT 第6戦 #FUJIMAKIGROUP鈴鹿GT300km GT500クラス 決勝レース スタートシーン pic.twitter.com/06X6uBQHy8
— 鈴鹿サーキット Suzuka Circuit (@suzuka_event) October 25, 2020
2020年 F1 第12戦 ポルトガルグランプリ
アルガルヴェ・サーキットでF1初開催となったポルトガルグランプリでは、多数のトラックリミットが発生しました。金曜日に開催された2回のフリー走行では、合計で125件のトラックリミット違反が発生し、当該のラップタイムがすべて抹消される事態となりました。
このときのトラックリミットの判定は、白線の内側を走行しなければならないと定める『国際モータースポーツ規則 付則L項』に準拠していました。金曜日の走行セッションの後、ドライバーブリーフィングが行われ、土曜日以降のセッションでトラックリミットの判定を緩和することが発表されました。
金曜日の走行でトラックリミットの件数が特に多かった、ターン1とターン4については、縁石が走路内と認められるようになりました。車両がわずかでも縁石の上を走行していれば、トラックリミット違反として扱われないようになりました。通常、このような対応が採られることはあまり無いため、異例であると言えます。
決勝ではトラックリミット違反を3回犯したドライバーに対して、警告という意味で黒白旗が提示されることになりました。黒白旗の後、4回目のトラックリミットを違反を犯したドライバーに、5秒のタイムペナルティが科されることになりました。
最終的にレーシングポイントのランス・ストロール選手、アルファタウリのダニール・クビアト選手、ハースのロマン・グロージャン選手の3名のドライバーに対して複数回のトラックリミット違反を犯したとして5秒のタイムペナルティが科されました。
トラックリミットに対する監視の強化
近代的なサーキットはランオフエリアがアスファルト舗装されているため、走路外を走行をすることで、タイムアップなどのアドバンテージを得てしまう場合があります。
ただし、F1ではランオフエリアがアスファルト舗装となっているサーキットでの開催は今に始まったことではありません。トラックリミットと騒がれるようになったのは、ここ数年以内のことだと思います。
最も大きな要因として、F1のレースディレクターが急逝したチャーリー・ホワイティング氏に代わって2019年からマイケル・マシ氏に変更となったことが挙げられます。レギュレーションの違反に対する判定基準が変わったのだと考えられます。
さらに、レースディレクターの判定に対してペナルティを科すスチュワードの判断も変わったのかもしれません。詳細は明らかにされないため分かりませんが、レース中の接触に対する判定などにおいても、以前と変わっているのは明らかです。
また、トラックリミットに対する監視が強化されるようになったのは、カメラやセンサー等の精度が向上し、トラックリミットを精度良くリアルタイムで監視できるようになったのも要因のひとつかもしれません。
ひと昔前であれば、カメラの映像を人間が判断していたのだと思いますが、現在ではリアルタイムで処理できていることを考えると、自動でトラックリミットを検出できるようになっているのかもしれません。
まとめ
F1ポルトガルGPではトラックリミットに対する黒白旗やタイムペナルティの件数が多すぎるように感じました。TVでF1観戦している視聴者もレースコントロールのメッセージがうっとうしいのではなかったでしょうか。
あまりトラックリミットに対する判定が厳しすぎると、ドライバーにとっても限界を確認するためにサーキットを攻めることができなくなったり、レースではオーバーテイクの機会が減ったりするかもしれません。最終的にレースがつまらなくなりそうな方向に進みそうな予感がします。
もしかすると、ランオフエリアがアスファルト舗装ではなく、グラベルでできている昔ながらのサーキットの方が、走路外を走行すると速く走行することができないため理想的なのかもしれません。
ただし、ランオフエリアをアスファルト舗装にしているのは、サーキットの安全性を高めるためでもあります。そのような意味では、サーキットの安全性とトラックリミットを両立できていませんので、サーキットやレギュレーションもまだ不十分なのかもしれません。
いずれにせよ、トラックリミットがどうのこうのといったことは、モータースポーツファンにとってはどうでも良いことだと思いますので、さらに面白いレースができるレギュレーションに変わっていって欲しいと思います。
(2021年12月15日発行版)
第4章 サーキットにおけるドライブ行為の規律
第2条 追い越し、車両のコントロールと走路の範囲
c) ドライバーは常に走路を使用しなければならない。疑義を避けるため、走路端部を定めている白線は走路の一部と見なされるが、縁石は走路の一部とはみなされない。
理由のいかんにかかわらず車両が走路を退去した場合、下記2.d)を侵さずにドライバーは再び合流することができる。しかしながら、その再合流は、それを行うことが安全であり、その実施によって優位に立つことがない場合にのみ実施できる。走路に車両の一部分も接触していない状態であれば、ドライバーは走路を退去したものと判断される。