モータースポーツの見どころといえば、コース上でライバルの車両を追い越す『オーバーテイク』ではないでしょうか。
サーキットによっては、コース上でオーバーテイクすることが難しく、どうしてもピットストップの戦略によって、ライバルの前に出なければならない場合もあります。
モータースポーツ初心者の方にとっては、ピットストップのタイミングの違いによって順位が入れ替わっても、どうして順位が変わったのか分からずイマイチ盛り上がれなかったりすることもあるかと思います。
コース上でのバトルは争っているマシン同士が容易に分かり、オーバーテイクをすることで順位が変わるため、レースの展開がわかりやすいと言えます。そのため、モータースポーツは追い越しの多いレースがエキサイティングで面白いレースであると考えます。
そこで、今回はコース上で順位が入れ替わる追い越しに関するレギュレーションについて解説してみたいと思います。
順位を守るための進路変更は1回まで
前方を走行している車両は、後方から追い越そうとしてくる車両に対して、順位を守るために1回だけ進路を変更することが認められています。追い越されないように左右へジグザグに進路を変えて、後方から接近してくる車両の進路をブロックすることは認められていません。
国際モータースポーツ競技規則 付則L項に『順位を守るために2回以上進行方向を変更することは認められない』と定められています。
モータースポーツ中継の解説などで『順位を守るための進路変更は1回まで』と言われることがあります。これは上記の国際モータースポーツ競技規則 付則L項に記載されている内容のことを指しています。
順位を守るために2回以上の進路変更を行った場合は、L項違反と判定され、ペナルティが科される場合があります。ちなみに、追い越そうとしている車両の進路変更の回数に制限はありません。
進路変更の後は相手にスペースを与える
前述のとおり、前方を走行する車両は後方から追い越そうとしてくる車両に対して、順位を守るために進路を1回だけ変更することが認められています。
認められている1回の進路変更を行った後、再びレーシングラインに戻る際には自身とコース端の間に少なくとも車両1台分のスペースを空けなければならないことになっています。
車両1台分のスペースを空けなければ、2回の進路変更を行ったと判定され、ペナルティを科される場合があります。
車両1台分のスペースを空ける理由は、後方から追い越そうとしてくる車両の進路を確保するためです。1回の進路変更をした後で再びレーシングラインに戻る際に、相手の進路となる1台分以上のスペースを空けていれば問題ありません。これが正しい順位を守るためのブロックのやり方です。
2017年 FIA F4 JAPANESE CHAMPIONSHIP 第3戦
富士スピードウェイ
2017年に富士スピードウェイで開催されたFIA F4 JAPANESE CHAMPIONSHIP 第3戦では最終コーナーを立ち上がった時に、背後に2台の車両に接近されていた笹原右京選手が順位を守るために3回の進路変更を行いました。
審査委員会は3回の進路変更を行った笹原右京選手に対してFIA F4 Sporting Regulation 違反として訓戒としました。
訓戒とは、レース結果に影響はありませんが、レギュレーションに違反している行為を行ったとして『審査委員会から叱られた』という不名誉な処分となり、リザルトにも掲載されます。
リザルト上はスポーティングレギュレーション違反となっていますが、レギュレーションに記載の内容は国際モータースポーツ競技規則 付則L項と同等となっています。
#6 笹原 右京
CarNo.6は、FIA-F4 Spr 第19条3.(3回の進行方向変更)違反により、訓戒とする。
第19条 ドライバーの遵守事項
3. 順位を守るために2回以上進行方向を変更することは認められない。順位を守るためにラインを外れたドライバーがレーシングラインに戻った場合には、コーナーに接近する際に走路の端部と自身の車両の間に少なくとも1台の車幅をあけること。
前方を走行する車両の進路は自由
前述のとおり、順位を守るための進路変更は1回までと国際モータースポーツ競技規則 付則L項で定められています。ただし、このレギュレーションを守りさえすれば、前方を走行する車両の進路を制限するレギュレーションは他にありません。
後方から他の車両が迫ってきていたとしても、レーシングスピードで通常の走行をしていれば、前方を走行している車両に進路の優先権があり、後方の車両に追いつかれないように自由にレーシングラインを走行することができます。
もし、後方の車両に後ろから追突され、スピンやコースアウトしてしまった場合は、基本的には前方を走行する車両に過失や接触の責任は無いと判断されるため、追突した後方の車両にペナルティを科せられる場合がほとんどです。
並走時は相手の進路を1台分以上空ける
複数台の車両が並走の状態でコーナーへ進入するときには、並走する相手のために1台分以上のスペースを空ける必要があります。
イン側を走行する車両はアウト側に1台分以上のスペースを空ける必要があり、アウト側を走行する車両はイン側に1台分以上のスペースを空ける必要があります。コーナーリングの間は相手にスペースを与えながら走行し続ける必要があります。
相手に1台分以上のスペースを与えなかった結果、相手が行き場を失って走路の外へ押し出されるような形になってしまったり、接触してしまったりといった状況になった場合、スペースを与えなかったドライバーに対してペナルティが科される場合があります。
逆に、相手がスペースを空けてくれているにも関わらず、オーバースピードでコーナーを曲がり切れなかったなどして、相手にぶつかってしまった場合、ぶつかった方のドライバーに対してペナルティが科される場合があります。
並走するアウト側の車両に対しても、車両1台分のスペースを空ける必要があります。相手にスペースを与えず、走路の外へ押し出してしまうとペナルティが科される場合があります。
まとめ
コース上での追い越し(オーバーテイク)に関するレギュレーションとしては、『順位を守るための進路変更は1回まで』と『並走時は相手のスペースを空けること』の2点をおさえておけば問題は無いと考えます。
コーナリング中に車両同士の接触が発生した場合、お互いに相手のスペースが確保されていたかどうかの観点で見るだけでも、どちらのドライバーが悪いのかがなんとなく分かると思います。
あと、国際モータースポーツ競技規則 付則L項の第4章には、サーキットで走行をするための基本的な規則が記載されていますので、一読してみることをおすすめします。
(2021年12月15日発行版)
第4章 サーキットにおけるドライブ行為の規律
第2条 追い越し、車両のコントロールと走路の範囲
b) 追い越しは、その瞬間の可能性に応じて、左右のいずれの側でも実施することができる。
ドライバーは正当な理由なく故意に走路を外れてはならない。順位を守るために2回以上進行方向を変更することは認められない。
順位を守るためにラインを外れたドライバーがレーシングラインに戻った場合には、コーナーに接近する際に走路の端部と自身の車両の間に少なくとも車両1台分の幅をあけること。
ただし、順位を守るための2回以上の進路変更、走路端を越え故意に車両を寄せること、その他の異常な進路変更を伴うような、他のドライバーを妨害するような行為は厳重に禁止される。上述の反則行為をしたと判断されるドライバーは、大会審査委員会に報告される。