レース中に車両トラブルが発生したり、他車との接触などのアクシデントによって車両にダメージを負ってしまった場合、自走してピットまで戻ることができればピットクルーの作業によって車両の修復を試みることができます。
そして、車両を修復したあとは、再度コースインし、レースに復帰することができます。
ピットに戻れなかった場合の修理
もし、トラブルによって車両がコース上でストップしてしまった場合は、ドライバー自身が車両の修理をすることが認められています。
コース上やランオフエリアに止まってしまった車両は、コースマーシャルによって、ガードレールの外側などの安全な位置まで車両が引き込まれます。その後、その場で車両の修理を試みることができます。
レース距離の短いスプリントレースでは、修理が必要なほどダメージを負ってしまった場合、ドライバーが車両の修理を行うことなく、リタイヤを選択します。車両を修理できたとしても、レースに復帰した時には何周も周回遅れになった状態で勝ち目がないからです。
このように、通常のレースにおいてはドライバーが車両の修理を行うことはほとんどありませんが、ルマン24時間耐久レースのような長丁場の伝統のあるレースにおいてはピットに戻るためにドライバーが修理する場合があります。
修理は車載工具で行う
ピットに戻ることができず、ドライバーが車両の修理を行う場合、必要となる工具は車両に搭載されているものでなければなりません。
チームクルーを含む第三者に車両の修理を手伝ってもらったり、工具を受け取ったりするのことは禁止されています。ただし、チームのスタッフが近くまで来て、口頭でドライバーに指示することは問題無いとされています。スタッフが近づけるのは一般に入場できる認められたエリアに限られます。
2012年 ルマン24時間耐久レース
2012年のルマン24時間耐久レースでは、中嶋一貴選手がドライブするLMP1クラスのトヨタTS030HYBRIDと本山哲選手がドライブするニッサン・デルタウイングが接触し、デルタウイングが弾かれてコンクリートウォールにヒットしてしまいました。
デルタウイングをドライブしていた本山哲選手はピットに戻るため、チームクルーのアドバイスを受けながら、1時間近くに渡ってコース脇でマシンの修復を試みました。
しかし、残念ながら車両を修復することができず、リタイヤとなりました。
スーパー耐久における救済措置
通常のレースでは車両のトラブルによってピットに戻ることができなければ、リタイヤとなりレースは終了となります。
スーパー耐久シリーズにおいては、『救済措置』というシステムがあり、コース上でストップしてしまった車両が再びレースに復帰することが認められています。
レース中に車両トラブルやクラッシュなどによって自走できなくなった場合、レッカー車によって車両がピットまで運ばれます。その後、ピットで車両を修復して再度レースに復帰することができます。
この救済措置は、レース終了間際まで行われるため、スーパー耐久は完走率の高いシリーズとなっています。
まとめ
車両トラブルやアクシデントによるダメージなどによって自走できなくなった場合、ドライバー自身が車両の修理を試みることができます。
ただし、実際のレースではドライバーが車両の修理を行なっている姿をほとんど見ることができません。
また、最近のレーシングカーは電子制御が増えており、車両の構造も複雑化していることから、ドライバーが1人で車両を修理することは容易ではなく現実的ではありません。
昔からの名残りのようなレギュレーションなのような気もしますが、ドライバーが車両の修理を試みる姿をたまには見てみたいですね。
(2021年12月15日発行版)
第4章 サーキットにおけるドライブ行為の規律
第3条 レース中に停止した車両
c) 走路で実行される修理は、ドライバー自身により車載されている工具および部品を用いて行うことのみが認められる。