イエローフラッグ『黄旗 Yellow Flag』はコース上に危険な状態があると判断された場合に、その現場の手前のオブザベーションポストで振られ、後続の車両に対して危険な状態であることを知らせます。
イエローフラッグの提示は振動(旗を振る)で行われます。
コース上の危険とは、車両がトラブルなどによってコース上に止まってしまったり、コントロールを失ってコースを外れた結果、グラベルにはまってしまい動けなくなったりしたような場合が挙げられます。
イエローフラッグが振られると、現場の次のオブザベーションポストではグリーンフラッグ(緑旗)が振られます。
イエローフラッグからグリーンフラッグまでの間は『黄旗区間』とされ、追い越しが禁止されます。モータースポーツファンにとっては、黄旗区間では追い越しが禁止されることは常識かと思います。
イエローフラッグはレース観戦する上で重要なフラッグのひとつです。実際にイエローフラッグがどのように運用されているのかを解説します。
出典:youtube.com
レギュレーション
イエローフラッグの1本振動
コース上に危険な状態が存在するとき、現場の手前のオブザベーションポストではイエローフラッグが振られます。具体的には、以下のような場合に1本のイエローフラッグが振られます。
- 車両がコース脇にストップしている。
- 車両がコース外のグラベルにストップしている。
- トラブル車両が非常に遅いスピードで走行おり、後続車両に危険を及ぼす可能性がある場合。
- コースマーシャルがコース外のグラベル上などでストップ車両の撤去作業を行っている。
- コース上に大きな落下物がある。
イエローフラッグの2本振動(ダブルイエロー)
コース上に車両がストップしているなどして、コースが部分的にふさがれているような場合はイエローフラッグが2本振られます。
2本のイエローフラッグはコース上に非常に危険な状況が存在することを後続の車両に対して知らせます。
ドライバーは大幅に速度を落とし、すぐに停止ができる準備をする必要があります。イエローフラッグが2本振られていることを『ダブルイエロー』と呼ぶことがあります。
イエローフラッグが2本振られるケースとしては以下のような場合が考えられます。
振られるイエローフラッグが1本なのか2本なのかは、現場のコースマーシャルやレースコントロールの判断などによって決定されます。
コースが部分的にふさがれている
コース上やコース脇に車両がストップし、コースを部分的にふさぐなどして、後続の車両の走行に影響を及ぼしていると判断されると、2本のイエローフラッグが振られます。
コースマーシャルが作業を行なっている
コースマーシャルがコース上やコース脇でストップした車両の撤去作業などを行っている場合、2本のイエローフラッグが振られます。
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イエローフラッグが振られると
事故現場の手前(後方)のオブザベーションポストでイエローフラッグが振られると、現場の次(前方)のポストではグリーンフラッグ(緑旗)が振られます。
イエローフラッグからグリーンフラッグまでの間は黄旗区間と定義され、黄旗区間では追い越しが禁止されるとともに、減速をしなければならないなどの制限が発生します。
黄旗区間での追い越し
イエローフラッグからグリーンフラッグまでの間は黄旗区間とされ、追い越しが禁止されます。
スーパー耐久のような複数のクラスが同時に走行するレースにおいては、クラス違いにより大きな速度差がありますが、いくら速度が速い車両であっても黄旗区間ではクラス下の遅い車両を追い越すことは認められません。
同様に周回遅れの車両であっても追い越しは禁止です。
2021年 SUPER GT 第2戦 富士スピードウェイ
2021年に富士スピードウェイで開催されたSUPER GT 第2戦ではGT300クラスの31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GTがトラブルによりコース脇にストップしたことにより、手前のオブザベーションポストでイエローフラッグが振られました。
そのとき、GT500クラスのトップを走行していた8号車 ARTA NSX-GTがこの黄旗区間でGT300クラスの車両を追い越してしまったことにより、ドライブスルーペナルティが科せられました。これにより、8号車はGT500クラスの優勝争いの権利を失うことになってしまいました。
黄旗区間中での追い越しに対する検証
黄旗区間中に追い越しがあった場合、レースコントロールでは追い越したドライバーがイエローフラッグを確実に確認できたかどうかが審議されます。
イエローフラッグが出た瞬間にそのオブザベーションポストの前を通過した車両のドライバーはイエローフラッグを確認することが困難と判断されるため、通常はペナルティが科せられることはありません。
2016年 SUPER GT 第6戦 鈴鹿サーキット
2016年に鈴鹿サーキットで開催されたSUPER GT第6戦では38号車『ZENT CERUMO RC F』が36号車『au TOM’S RC F』を黄旗区間中で追い越したと審議されました。
国際映像では38号車が追い越す前にイエローフラッグが振られているオブザベーションポストの前を通過しているのを確することができます。
しかし、レースコントロールはイエローフラッグが振られたのはポストを通過する直前でありドライバーがイエローフラッグを確認するのは困難と判断し、ペナルティが科されることはありませんでした。
判定の経緯はTV番組の『SUPER GT プラス』内にて同時、SUPER GTのDSO(Driving Standard Observer)を務めていた服部尚貴氏によって説明されました。
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黄旗区間でも以下のようなレースコントロールがやむを得ないと判断した場合は追い越してもペナルティとならない場合があります。
- 車両トラブルなどが原因で明らかに低速で走行している車両をやむを得ず追い越した。
- 低速で走行し、レーシングラインを外して後続車両に先に行ってもらうようにゆずっている車両を追い越した。
- 第2セーフティカーラインを通過する前のピットアウト直後の車両を追い越した。
黄旗区間での減速義務
黄旗区間では、減速をして走行しなければならないとレギュレーションで定められています。黄旗区間を通過したにも関わらず、減速をせずに走行をすると、イエローフラッグ無視としてペナルティが科せられる場合があります。
イエローフラッグが1本振られている場合は、黄旗区間での減速が明らかでなければならず、イエローフラッグが2本振られている場合は、有意義なラップタイムを記録してはならないことになっています。つまり、タイムアタック中にイエローフラッグが2本振られている黄旗区間を通過した場合は、タイムアタックを諦めなければなりません。
また、黄旗区間ではスピンやオーバーランをしたり、車両同士の接触などについて厳しく監視されています。レースコントロールは減速して走行していれば、スピンやオーバーランをするはずがないと考えています。同様の理由でアクシデントの現場の近くの縁石を踏んで走行するなどした場合も減速していないと判断されペナルティが科せられる場合があります。
公式予選での黄旗区間の通過
公式予選においては、黄旗区間を通過したにも関わらず、そのラップがベストタイムとなった場合は、黄旗区間で確実に減速していたかどうかが問われます。
黄旗区間のあったセクターでセクターベストタイムが記録されていないか、F1ではテレメトリーのデータを確認してアクセルが適切に緩められているかといったことが検証されます。
黄旗区間で減速をしていなかったと判定された場合には、ラップタイムの抹消だけでは済まされず、グリッド降格などのペナルティが科せられる場合があります。
黄旗区間における減速義務の明文化
FIAが2017年12月22日に発行した国際モータースポーツ競技規則 付則H項において、イエローフラッグの1本振動、2本振動の記述に文言が追加され、黄旗区間での減速が明文化されました。
特にイエローフラッグが2本振られているダブルイエローの区間を通過した車両においてはタイムアタックを断念しなくてはなりません。
黄旗区間を通過したにも関わらず、ベストラップを記録した場合は、レギュレーション違反となることが明確になったと言えます。
1本の振動:
ドライバーがスピードを落としたことが明らかでなければならない。これは、ドライバーが、手前で制動したこと、および/またはそのセクターで速度を著しく落としたことを意味する。
2本の振動:
フリー走行および予選中は、ドライバーが有意義なラップタイムを達成しようとしていないことが明らかでなければならない。これは、ドライバーが当該ラップを放棄するべきであることを意味する(次のラップで走路が十分片付いている場合がありうるので、ピットへ入らなければならないことを意味するものではない)。
2021年 F1 第20戦 カタールGP
2021年にロサイル インターナショナル サーキットで開催されたF1第20戦カタールGPの公式予選Q3では、アルファタウリのピエール・ガスリー選手がターン15の縁石にヒットしたことにより、タイヤがパンクしたため、メインストレートにストップしました。
このとき、イエローフラッグが振られ、レッドブルのマックス・フェルスタッペン選手、メルセデスのバルテリ・ボッタス選手、フェラーリのカルロス・サインツ選手らが黄旗区間で減速していたかどうかが審議されました。
スチュワードによる審議の結果、フェルスタッペン選手に黄旗2本振動の無視があったとして、5グリッド降格のペナルティ、ボッタス選手に黄旗1本振動の無視があったとして、3グリッド降格のペナルティが科せられました。
サインツ選手は減速していることが認められたため、ペナルティは科せられませんでした。
2021年 F1 第1戦 バーレーンGP
2021年にバーレーン インターナショナル サーキットで開催されたF1第1戦バーレーンGPの公式予選Q1では、アストンマーティンのセバスチャン・ベッテル選手がチェッカーフラッグが振られる直前にコントロールラインを通過し、Q1最後のタイムアタックを開始しました。
ところが、ベッテル選手の2台前方を走行していたハースのニキータ・マゼピン選手がターン1手前でスピンをしたため、イエローフラッグが振られました。イエローフラッグは2本振られており、いわゆる『ダブルイエロー』の状態でしたが、ベッテル選手は、そのままタイムアタックを継続しました。
ベッテル選手は、ダブルイエロー区間を通過したにも関わらず、タイムアタックを中断しなかったとして、5グリッド降格のペナルティが科せられました。
2020年 F1 第1戦 オーストリアGP
2020年のF1第1戦オーストリアGPの公式予選では、Q3の最後のタイムアタックでメルセデスのバルテリ・ボッタス選手がミスによりコースをオーバーランしました。
これによりイエローフラッグが振られ、その数秒後にメルセデスのルイス・ハミルトン選手が黄旗区間を通過しました。ルイス・ハミルトン選手はその周回でベストタイムを記録したものの、順位を上げることはできずに予選2番手となりました。
公式予選後にルイス・ハミルトン選手が黄旗区間で減速していたかどうかが審議となりました。ルイス・ハミルトン選手はイエローフラッグが見えなかったと訴え、審議の結果、問題無しと判定されました。
ところが、決勝当日の日曜日になって、レッドブルから抗議があり、再度、審議されることになりました。レッドブルはルイス・ハミルトン選手がイエローフラッグ(黄色に点滅しているデジタルフラッグ)を確認できたことを証明するオンボードカメラの映像を根拠として提出したと言われています。
再審議の結果、レッドブルの抗議が認められることになり、決勝の開始直前になって、ルイス・ハミルトン選手に3グリッド降格のペナルティが科せられました。
The stewards cleared @LewisHamilton of any wrongdoing following this yellow flags incident at the end of qualifying on Saturday 👀#AustrianGP 🇦🇹 #F1 pic.twitter.com/Vx9ziJtuU3
— Formula 1 (@F1) July 4, 2020
2019年 F1 第18戦 メキシコGP
2019年のF1第18戦メキシコGPの公式予選Q3では、メルセデスのバルテリ・ボッタス選手が最終コーナーでクラッシュし、イエローフラッグが振られました。
直後に黄旗区間を通過したフェラーリのセバスチャン・ベッテル選手は減速したため、タイムアップをすることができませんでした。
一方で、セバスチャン・ベッテル選手の後方を走行していたレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手は黄旗区間を通過したにも関わらずタイム更新をし、ポールポジションを獲得しました。
公式予選後に審議が行われ、マックス・フェルスタッペン選手が黄旗区間で減速しなかったことが認められました。
レーススチュワードは黄旗区間にも関わらず、減速をしなかったとして、マックス・フェルスタッペン選手に3グリッド降格のペナルティを科しました。
2017年 SUPER GT 第3戦 オートポリス
2017年にオートポリスで開催されたSUPER GT第3戦では公式予選中に36号車『au TOM’S LC500』がコースオフしグラベルにスタックしてしまったためイエローフラッグが振られました。
その後、38号車『ZENT CERUMO LC500』と6号車『WAKO’S 4CR LC500』はこの黄旗区間を通過しましたが、そのままコントロールラインを通過しベストラップを記録しました。
しかし、レースコントロールは予選終了後にこれらの2台の黄旗区間での減速が不十分だったと判断し、黄旗区間を通過したラップのタイム(ベストラップタイム)は抹消されてしまいました。
イエローフラッグの撤去
ストップした車両の撤去が完了したなど、アクシデント発生現場の危険が無くなったと判断されたら、事故現場手前(後方)のオブザベーションポストのイエローフラッグが撤去されます。合わせて現場先(前方)のポストのグリーンフラッグも撤去されます。
ストップした車両がガードレールの開口部などへ完全に引き込まれなくても、グラベルの奥やコース脇などのレースコントロールが安全と判断した場所へ車両を移動させた時点でイエローフラッグが撤去されるケースもあります。
ストップした車両がガードレール脇などに残ったままになりますが、レースはそのまま継続されます。このような運用はレースシリーズやサーキットによって異なります。
複数手前のポストからの提示
競技長はアクシデント発生現場の複数手前のオブザベーションポストからイエローフラッグの提示を命じることができます。
コース上に大きな危険が存在していたり、ブラインドコーナーのような見通しの悪い場所の先にアクシデント現場がある場合など、後続の車両を確実に減速させたい場合に運用されます。
運用には競技長判断が必要とレギュレーションで定められているため、現場のコースマーシャルの判断で複数手前のオブザベーションポストからイエローフラッグを提示することはできないことになっています。
具体的には以下のような場合が挙げられます。
- コース上に複数の車両が停止している
- イエローフラッグが振られているオブザベーションポストがブラインドコーナーの先にある
- 事故現場にオイルが漏れており、ドライバーに早めの減速を促す必要がある。
- ストップ車両の撤去作業中のため、後続の車両の走行速度を十分に落とす必要がある。
落下物での提示
通常、コース上にある落下物などの障害物に対してはオイルフラッグを提示して対応します。ところが、落下物が大きく後続の車両の走行に危険を及ぼすと考えられる場合はイエローフラッグが振られる場合があります。
コースマーシャルによる落下物回収
コース上の落下物がレーシングライン上にあるなど後続の車両の走行に影響があると考えられる場合は、コースマーシャルによって落下物の撤去作業が行われます。
撤去は車両の合間をぬって行われますが、作業中はコースマーシャルがコース上に存在し、非常に危険な状況であるためイエローフラッグが振られます。
スーパーフォーミュラの公式予選での運用
スーパーフォーミュラでは黄旗区間を通過した車両のタイムは採択されない規則があります。黄旗区間を減速しているかどうかではなく、黄旗区間を通過した全ての車両が対象となります。同様の規則が全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権にも導入されています。
第27条 プラクティスセッション(公式予選等)
8. 公式予選中、黄旗提示区間を走行した車両の当該周回タイムは、公式予選結果として採用しない。
レッドフラッグが提示された時の運用
ローカルルール的な運用となりますが、大きなアクシデントの発生などによりレッドフラッグが振られ、セッション中断となった場合に、原因となった事故現場を後続車両に知らせるために、レッドフラッグに加えて、現場の手前のオブザベーションポストではイエローフラッグ(ダブルイエローの場合もあります)を併用する場合があります。
フォーメーションラップ
フォーメーションラップでは全てのオブザベーションポストでグリーンフラッグが振られますが、グリッド直前のオブザベーションポストなどで減速を促すために、国内のサーキットではイエローフラッグを提示することが一般的となっています。
規則により運用が明記されているわけではなく、サーキット毎の独自の運用となります。
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ローリングラップ
ローリングスタート形式のレーススタートでは、ローリングラップ中は全てのオブザベーションポストでイエローフラッグが振られます。
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フラッグの意味
赤旗 | 黄旗 |
オイル旗 |
青旗 |
白旗 |
緑旗 |
黒白旗 |
オレンジディスク |
黒旗 |
チェッカー |
国旗 |
(2021年12月23日発行版)
2.5.5 マーシャルポストで使用される信号
b) 黄旗:
これは危険信号であり、次の2通りの意味をもってドライバーに表示される。
1本の振動:
速度を落とし、追い越しをしないこと。進路変更する準備をせよ。トラックわき、あるいはトラック上の一部に危険箇所がある。ドライバーがスピードを落としたことが明らかでなければならない。これは、ドライバーが、手前で制動したこと、および/またはそのセクターで速度を著しく落としたことを意味する。
2本の振動:
速度を大幅に落とし、追い越しをしないこと。進路変更する、あるいは停止する準備をせよ。トラックが全面的または部分的に塞がれているような危険箇所がある、および/あるいはマーシャルがトラック上あるいは脇で作業中である。フリー走行および予選中は、ドライバーが有意義なラップタイムを達成しようとしていないことが明らかでなければならない。これは、ドライバーが当該ラップを放棄するべきであることを意味する(次のラップで走路が十分片付いている場合がありうるので、ピットへ入らなければならないことを意味するものではない)。
黄旗が表示されるのは、通常、危険箇所直前のマーシャルポストだけである。しかし、幾つかのケースにおいては、競技長は事故現場手前の複数のポストで黄旗の表示を命じることができる。
最初の黄旗から事故現場を過ぎて、緑旗が表示されている地点までの間、追い越しは禁止される。
ドライバーに知らせる必要があるような事故がない限り、ピットレーンで黄旗を表示しないこととする。
競技長あるいはレースディレクターは、2本の黄旗がプラクティス、予選あるいは決勝中に出された場合には、走路のすべて、あるいは任意の区画で速度制限を課すことができる。
あらゆる場合において、速度制限の終了地点は、次のマーシャルポスト、もしくは適切な各マーシャルポストで緑旗によって知らされる。各レースまたは選手権の競技規則にて、これらの実施要件が記載される場合がある。