2年ぶりのブラジルでのF1開催となった2021年F1第19戦サンパウログランプリでも、2番グリッドからスタートしたレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手とICE(エンジン)交換により5グリッド降格となり、10番グリッドからのスタートとなったメルセデスのルイス・ハミルトン選手の激しい争いとなりました。
この争いの中で、フェルスタッペン選手に対して、審議対象になり得る2件のドライビング行為がありました。『他のドライバーをコース外へ押し出す行為』と『順位を守るための進路変更』についてです。
長らくモータースポーツを観戦しているファンにとっては常識ではありますが、モータースポーツ初心者のために、この2件の行為について解説してみます。
48周目 – ターン4でのハミルトン選手に対してのコース外への押し出し
48周目、ハミルトン選手がDRSを利用してフェルスタッペン選手に迫り、左コーナーのターン4に向けて、アウト側(右側)のハミルトン選手、イン側(左側)のフェルスタッペン選手が並走する形となりました。
このとき、イン側を走行するフェルスタッペン選手がターン4を曲がりきれずにコース右側にオーバーランしました。アウト側に膨らんだフェルスタッペン選手を避けようとしたハミルトン選手もアウト側にオーバーランする形となりました。
LAP 48/71
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— Formula 1 (@F1) November 14, 2021
ハミルトン選手はフェルスタッペン選手をオーバーテイクすることができず、結果としてフェルスタッペン選手は順位を守ったことになりました。
通常、他のドライバーをコース外へ押し出すような行為は禁止されています。これは、FIA公認のモータースポーツの共通ルールである『国際モータースポーツ競技規則 付則L項』というレギュレーションに定められています。
今回の件は、フェルスタッペン選手がハミルトン選手を押し出したと判断することもできます。しかし、レースコントロールは審議せず、中継映像には『TURN 4 INCIDENT INVOLVING CARS 33(VERSTAPPEN) AND 44(HAMILTON) NOTED』(ターン4でのフェルスタッペンとハミルトンのインシデントは記録された)とのメッセージが表示されました。
その後、改めて「TURN 4 INCIDENT INVOLVING CARS 33(VERSTAPPEN) AND 44(HAMILTON) NO INVESTIGATION NECESSARY」(ターン4でのフェルスタッペンとハミルトンのインシデントは審議の必要無し)とのメッセージが表示され、審議が行われないことが明らかにされました。審議されないということは、レースコントロールは違反性が無いと判断したということです。
おそらく、レースコントロールは順位を争っている2台のバトルの中でやむを得ない行為だったと判断したのかもしれません。もし、この行為に対してフェルスタッペン選手に5秒間のタイムペナルティなどが科せられていたら、それで2台の争いは終わってしまっていたので、結果的にはレーシングアクシデントとして扱われたことが、その後のエキサイティングなレース展開へつながったと言えます。
58周目 – ターン4での順位を守るための進路変更
58周目のターン3を立ち上がったあと、背後に迫るハミルトン選手にスリップストリームを使わせないようにするため、フェルスタッペン選手は一旦、コースの左側いっぱいまで走行ラインを変え、その後、コース右側まで進路を変更したあと、コース中央のラインを選択し、右側から並走してきたハミルトン選手と共にターン4へ進入しました。
LAP 58/71
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この行為に対して、レースコントロールは黒白旗を提示しました。黒白旗は『警告』を意味する旗でスポーツマンシップに反する行為を行ったドライバーに対して提示されます。ただし、黒白旗にはペナルティを科すという意味合いはありません。ただし、黒白旗を提示されたにも関わらず、同様の行為を繰り返した場合は、スチュワードへ通告され、ペナルティが科せられる場合もあります。
どうして、黒白旗が提示されたのかと言うと、順位を守るための進路変更を2回以上行ってはならないとレギュレーションで定められているためです。これは、さきほどの他のドライバーをコース外へ押し出す行為と同様に、『国際モータースポーツ競技規則 付則L項』というレギュレーションに以下のように定められています。
第4章 サーキットにおけるドライブ行為の規律
第2条 追い越し、車両のコントロールと走路の範囲
b) 追い越しは、その瞬間の可能性に応じて、左右のいずれの側でも実施することができる。
ドライバーは正当な理由なく故意に走路を外れてはならない。順位を守るために2回以上進行方向を変更することは認められない。
順位を守るためにラインを外れたドライバーがレーシングラインに戻った場合には、コーナーに接近する際に走路の端部と自身の車両の間に少なくとも車両1台分の幅をあけること。
ただし、順位を守るための2回以上の進路変更、走路端を越え故意に車両を寄せること、その他の異常な進路変更を伴うような、他のドライバーを妨害するような行為は厳重に禁止される。上述の反則行為をしたと判断されるドライバーは、大会審査委員会に報告される。
今回のフェルスタッペン選手の行為においては、最初のコースの左側へラインを変更する行為は順位を守るための正当なブロックとして認められます。その後、コースの右側の端まで進路を変更しました。これが2回目の進路変更と見なされ、違反行為に該当します。
レギュレーションを守って正当なブロックをするには、2回目の進路変更においてコース右側端まで寄せずにハミルトン選手のために、コースの右側に車両1台分以上のスペースを確保しておく必要があります。
まとめ
今回のサンパウログランプリでフェルスタッペン選手に対して2件の行為がありましたが、『他のドライバーをコース外へ押し出す行為』と『順位を守るための進路変更は1回まで』というルールはFIA公認のモータースポーツの世界共通ルールとなっている国際モータースポーツ競技規則で定められたものです。
したがって、F1だけでなく、国内で開催されているSUPER GTやスーパーフォーミュラなどにも適用されます。国際モータースポーツ競技規則は英語では『International Sporting Code (インターナショナル・スポーティング・コード)』と呼びます。
今回紹介した国際モータースポーツ競技規則 付則L項だけでなく、『国際モータースポーツ競技規則 付則H項』にはフラッグやセーフティカーの運用ルールなどが定められていますので、読んだことが無い方は英語版はFIAのウェブサイトから、日本語版はJAFのウェブサイトからダウンロードすることができますので、一読しておくことをおすすめします。
第4章 サーキットにおけるドライブ行為の規律
第2条 追い越し、車両のコントロールと走路の範囲
b) 追い越しは、その瞬間の可能性に応じて、左右のいずれの側でも実施することができる。
ドライバーは正当な理由なく故意に走路を外れてはならない。順位を守るために2回以上進行方向を変更することは認められない。
順位を守るためにラインを外れたドライバーがレーシングラインに戻った場合には、コーナーに接近する際に走路の端部と自身の車両の間に少なくとも車両1台分の幅をあけること。
ただし、順位を守るための2回以上の進路変更、走路端を越え故意に車両を寄せること、その他の異常な進路変更を伴うような、他のドライバーを妨害するような行為は厳重に禁止される。上述の反則行為をしたと判断されるドライバーは、大会審査委員会に報告される。