2022年F1第7戦モナコグランプリでは暫定結果が発表された後、フェラーリはレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手とセルジオ・ペレス選手がピットアウトする際にピットロード出口に引かれているイエローラインをカットしたのではないかとして抗議をしました。
抗議はスチュワードの判定結果に対して不服がある場合に、正式結果が発表されるまでの間にあらかじめ定められた手順に従って行うことができます。抗議をするには抗議料を支払う必要がありますが、抗議が正式に認められた場合は抗議料は返還されます。
モータースポーツはレギュレーションに則って行われる競技ではありますが、人間がアウトかセーフを判定している以上、誤審の可能性はゼロではありません。抗議はレースコントロールやスチュワードの誤った判定を覆すことができるモータースポーツの良いシステムであると言えます。
モータースポーツにおける『抗議』についての基本的な内容はこちらの記事を参照ください。
レギュレーション
ピットロード入口と出口に引かれているラインをカットしてはならないことは国際モータースポーツ競技規則 付則L項で定められています。
判定基準
ピットロード入口と出口のラインカットの定義について、たびたび議論になることが多いのですが、現在のレギュレーションの判定基準はあくまでも『ラインを超えてはならない』と定められており、F1に限らずタイヤが1本でもラインをまたいでしまうとアウトという運用が行われているのが通例となっています。
そのため、ラインを踏むのはセーフと判断されており、タイヤがわずかでもラインに接触しているとラインを超えてはいない、つまりセーフと判定されます。
トラックリミット違反においても同様で、タイヤがわずかでもコース端を示すラインに接触しているとコース上と判定されています。
また、タイヤがラインと接触しているかどうか判断できないような微妙な場合は、実際の裁判と同様に『疑わしきは罰せず』の精神でセーフと判定されることになるのではないかと考えますが、最終的にはスチュワードが判断します。
マックス・フェルスタッペン選手のピットアウト (23周目)
国際映像およびオンボードの映像では、23周目にマックス・フェルスタッペン選手がピットアウトする際に、ピットロード出口のイエローラインを踏んでいることが分かりますが、またいだかどうかまでは分かりません。
Pictures of Verstappen just before and after the white line taken from Leclerc’s car cam footage pic.twitter.com/ZxxlkQW6GN
— Eric Stokes (@SpacemanStokes) May 29, 2022
スチュワードによる裁定
フェラーリは2021年のオーストリアグランプリでの角田裕毅選手がピットロード入口のラインをカットした事例を挙げて、レギュレーションに違反していると抗議しました。
しかし、スチュワードはフェルスタッペン選手のマシンのタイヤはイエローラインを完全に横切っておらず、レギュレーションに定められている『超えてはならない』に違反していないとして、フェラーリの抗議を却下する裁定を下しました。
セルジオ・ペレス選手に対する抗議についても、同様に却下されました。
過去の事例
2020年 F1トルコグランプリ
2020年のトルコグランプリではレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手がピットロード出口で滑りやすい路面でコントロールを乱し、ラインをカットしたとして審議にかけられました。
最終的に、スチュワードは様々な映像を検証し、ピットロード出口のホワイトラインを完全にカットした根拠が確認できなかったとして、ペナルティは科せられませんでした。
2021年 F1ロシアグランプリ
2021年のロシアグランプリではレース終盤に雨が降り出し、ドライからウェットに変わる展開となりました。マクラーレンのランド・ノリス選手がドライタイヤのまま走行を続けましたが、タイヤ交換のためにピットインしようとしたところ、コントロールを乱してしまいピットロード入口のラインをカットしてしまいました。
しかし、ピットロード入口のラインをカットしたことに対してのペナルティは科せられませんでした。
これは、滑りやすいウェットコンディションでドライタイヤを装着していたこと、ピットインせずにそのまま走行していれば更なる危険な状況が発生する可能性があったことなどが考慮され、不可抗力であったと判断されたのではないかと推測できます。
ブルーフラッグ無視
今回のモナコグランプリではフェラーリのカルロス・サインツ選手がピットアウト時に周回遅れのウイリアムズのニコラス・ラティフィ選手にブロックされていたようです。
ニコラス・ラティフィ選手に対してはブルーフラッグが振られており、サインツ選手はピットアウト直後からトンネル入口までのコース1/3周程度の間、ラティフィ選手の後ろを走行することを強いられました。
この件については、ブルーフラッグ無視として抗議すれば認められていたかもしれません。
ラティフィ選手へペナルティが科せられたところでフェラーリにとっては意味が無いことかもしれませんが、レースコントロールやスチュワードの考え方が変わるきっかけになる可能性もあったのではないかと考えます。
The out lap of Carlos Sainz after his pit stop, where he was stuck behind Latifi, which ultimately cost him the win…
Unbelievable 💔 pic.twitter.com/VlFiMiWvO9
— Ferrari News (@FanaticsFerrari) May 29, 2022
第4章 サーキットにおけるドライブ行為の規律
第4条 ピットレーンへの進入
d) 不可抗力(審査委員会によってそのように認められた)の場合を除き、ピットレーンに進入する車両の一切のタイヤは、いかなる方向であっても、ピットレーンに進入する車両とコース上の車両を分離する目的でピット入口のコース上に引かれた一切のラインを横断することは禁止される。
第5条 ピットレーンからの退去
c) 不可抗力(審査委員会によってそのように認められた)の場合を除き、ピットレーンを出ようとする車両の一切のタイヤは、ピットを離れる車両とトラック上を走行する車両とを区分する目的でピット出口のトラック上に引かれているいかなるラインも超えてはならない。