ハミルトンとフェルスタッペンの接触
シルバーストーンで開催された2021年第10戦イギリスGPでは、スタート直後の1周目にターン9(コプス)でトップ争いをしていたメルセデスのルイス・ハミルトン選手とレッドブルのマックス・フェルスタッペンが接触しました。
接触により、フェルスタッペン選手はスピンをし、じゅうぶんにスピードが落ちないままタイヤバリアへクラッシュしました。車両を撤去するためにセーフティカーが導入されましたが、レッドフラッグが振られ、レースは一時中断となりました。
今回は、この1周目に発生したハミルトン選手とフェルスタッペン選手の接触について解説します。
Verstappen and Hamilton collide!
The title rivals come together at Copse, pitching Verstappen into a high-speed crash.
The Dutchman was able to walk away but he has been taken to hospital for precautionary checks#BritishGP 🇬🇧 #F1 pic.twitter.com/ol1s9dRJoa
— Formula 1 (@F1) July 18, 2021
スチュワードの裁定
スチュワードは、接触の原因となったとして、ルイス・ハミルトン選手に対して10秒のタイムペナルティとペナルティポイント2を科しました。
裁定に至った理由として、スチュワードは以下のように述べています。
No.33(マックス・フェルスタッペン)とNo.44(ルイス・ハミルトン)がターン9へ進入したとき、No.33が前で、イン側のNo.44がわずかに後ろにいました。
No.44はコーナーのエイペックス(頂点)に達しないラインを取り、イン側にスペースがありました。
No.33がコーナーに向けてターンしたとき、No.44は接触を避けようとしませんでした。そして、No.44の左フロントとNo.33の右リアが接触しました。
No.44に主な過失があったと判断されました。
スチュワードの裁定の正当性
通常の四輪のモータースポーツでは、並走の状態でコーナーへ進入するとき、お互いに相手のスペースを確保する必要があります。
アウト側を走行する車両はイン側を走行する車両のために1台分以上のスペースを確保する必要があります。一方、イン側を走行する車両はアウト側を走行する車両のために1台分以上のスペースを確保する必要があります。
今回のハミルトン選手とフェルスタッペン選手の接触が発生したとき、フェルスタッペン選手が車両の全長の半分ほどハミルトン選手よりも前方を走行していましたが、お互いに並走状態であったと判断できます。
フェルスタッペン選手はイン側に1台分以上のスペースを確保しており、ハミルトン選手もアウト側に1台分以上のスペースを確保していました。
ハミルトン選手のイン側にはスペースが残っていたのは事実ですが、並走状態でコーナーへ進入するとき、イン側の車両はコーナーのエイペックスを通るラインを走行しなければならないというレギュレーションは存在しません。
違反とされた国際モータースポーツ競技規則 付則L項 第4章 2 d)の文言を確認すると、ドライビングミスなどの過失によって引き起こされるような接触に対して適用されるレギュレーションであると考えられます。
ハミルトン選手はドライビングミスなどによるアンダーステアによって曲がり切れないなどの過失があったとも判断できないため、今回のイギリスGPで発生したハミルトン選手とフェルスタッペン選手の接触はレーシングアクシデントが妥当なのではないかと考えます。
まとめ
今シーズンのF1におけるスチュワードの裁定はトラックリミット違反のようにレギュレーションに則り、わずかな違反であっても厳しく取り締まる傾向にあると思います。
今回のイギリスGPでのハミルトン選手とフェルスタッペン選手の接触はお互いにリスクわ犯しながらのクリーンな争いの上でのやむを得ない接触、すなわち『レーシングアクシデント』かと思いましたが、スチュワードによる審議の結果、違反と判定されました。
F1では接触についての明確な判断基準が明らかにされておらず、裁定に至った経緯も不明確なままとなっているケースがあります。
今シーズンのF1はメルセデスとレッドブルの熾烈な争いが繰り広げられており、近年まれに見る魅力のあるシーズンとなっています。第9戦のオーストリアGPでもレース中のペナルティが多発しました。せっかくの面白いシーズンをスチュワードが台無しにしてしまうのだけは避けていただきたいと思います。
第4章 サーキットにおけるドライブ行為の規律
第2条 追い越し、車両のコントロールと走路の範囲
d) 重大な過誤を繰り返したり、あるいは車両に対するコントロールの欠如(走路から離脱するような)が見受けられるときは、大会審査委員会に報告され、一切の当該ドライバーに対し失格に至るまでの罰則を適用することができる。