2020年10月2日、ホンダは2015年に開始した第4期のF1活動を休止することを発表しました。ホンダのF1参戦は2021年シーズンの最後まで継続しますが、第4期のF1参戦を簡単に振り返ってみたいと思います。
2008年 第3期F1活動 撤退
2008年12月5日、ホンダはリーマンショックに端を発した景気後退を理由に、2008年のシーズン終了後に2000年から行っていた第3期のF1活動からの撤退を発表しました。
このとき、『休止』という言葉は使わず、『撤退』と発表したため、もうホンダはF1に戻ってこないと考えられていました。
2013年 第4期F1参戦発表
2013年5月16日、ホンダは2015年シーズンからマクラーレンとのジョイントプロジェクトでF1に復帰することを発表しました。
2014年からF1に導入されるハイブリッドシステムを搭載したF1パワーユニットの開発へチャレンジすることで、将来技術の開発と技術者の育成を行うとのことでした。
マクラーレン・ホンダの復活、ドライバーはチャンピオン経験のあるフェルナンド・アロンソ選手とジェンソン・バトン選手ということもあり、国内外から大きく期待されていました。
2015年 マクラーレン
2015年、ホンダはF1参戦発表から1年半という短期間でパワーユニット『Honda RA615H』を開発し、マクラーレン・ホンダとしてF1に復帰しました。しかし、シーズン開幕前のテストの段階でパワーユニットのパフォーマンス不足と信頼性の低さが明らかになりました。
シーズンが開幕してもパフォーマンス不足と信頼性の低さに悩まされることになり、当初期待されていたような結果を残すことができませんでした。特に鈴鹿サーキットで開催された日本グランプリではレース中の無線でフェルナンド・アロンソ選手に『GP2エンジン!GP2!』とF1の格下のカテゴリーであったGP2のエンジンと言われてしまったほどでした。
2015年シーズンはコンストラクターズチャンピオンシップにおいても、マクラーレン創設以来ワーストとなる9位というホンダだけでなくマクラーレンにとっても散々なシーズンとなりました。
出典:honda.co.jp
2016年 マクラーレン
2016年、ホンダはターボを大型化するなどの改良を行ったパワーユニット『Honda RA616H』を投入しましたが、当時のレギュレーションによって大幅なパワーユニットの仕様変更を行うことができず、基本的な設計は『Honda RA615H』を踏襲していました。
公式予選ではQ3に進出したり、ポイント圏内となる10位以内でフィニッシュするレースも増えてきましたが、それも不十分で2015年シーズンに続き、苦しいシーズンを送りました。
マクラーレン・ホンダはコンストラクターズチャンピオンシップで2015年を上回ることはできましたが、6位に留まりました。
出典:honda.co.jp
2017年 マクラーレン
2017年には新たに新設計したパワーユニット『Honda RA616H』を投入しましたが、パフォーマンス不足は大きく改善しませんでした。
シーズン途中では2018年シーズンから2チーム目となるザウバーへのパワーユニットの供給契約を結んだことを発表しましたが、ザウバーのチーム代表交代に伴う方針転換のため、一転して契約が解除されてしまいました。
そのような中、成績不振が続いていたマクラーレンとの決別が噂されていましたが、9月に2017年シーズンをもって3年間に渡ったマクラーレンとのパートナーシップの関係を終了することが正式に発表されました。
また、マクラーレンとのパートナーシップ解消の発表前には2018年シーズンのパワーユニットの供給先が見つからない状況であったとも言われましたが、2018年シーズンからスクーデリア・トロロッソへパワーユニットを供給することが発表されました。
マクラーレンとの最後のシーズンはコンストラクターズチャンピオンシップで9位と最後まで成績を残すことができませんでした。
2018年 トロロッソ
2018年、ホンダはパワーユニットの開発体制を一新し、トロロッソと新たなシーズンをスタートしました。しかしながら、マクラーレン時代に続き、パフォーマンス不足と信頼性の低さに悩まされ、苦しいシーズンを送りました。
2018年6月には2019年シーズンからレッドブル・レーシングへの2年間のパワーユニット供給契約を結んだことを発表し、ホンダとして初めて2チームへのパワーユニット供給が決定しました。
トロロッソとの1年目はパワーユニットのパフォーマンス不足だけでなく、マシンのパフォーマンス不足やドライバーの技量不足もあり、コンストラクターズチャンピオンシップ9位とマクラーレン時代の成績を上回ることはできませんでした。
出典:honda.co.jp
2019年 レッドブル、トロロッソ
2019年、ホンダはトロロッソとのパートナーシップ関係の中で開発した『Honda RA619H』をレッドブルとトロロッソの2チームへ供給しました。ホンダジェットの技術を投入した効果があったようで、信頼性に悩まされることは少なくなりました。
一方で、これまでパワーユニットのパフォーマンスはパワーユニットサプライヤーの中で最も低い4番目と言われ続けてきましたが、3番目と言われたルノーを上回るパフォーマンスを見せることもありました。
そして、第9戦オーストリアグランプリではレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手が優勝を果たし、ホンダとしては2006年のハンガリーグランプリ以来となるF1での勝利を挙げました。レース中にフェラーリのシャルル・ルクレール選手をオーバーテイクするなど、運ではなく実力で勝利を挙げたこともあって、ホンダのパワーユニットのパフォーマンス不足を懸念する声は無くなりました。
その後、レッドブルは第11戦ドイツグランプリ、第20戦ブラジルグランプリでも勝利を挙げ、年間3勝、コンストラクターズチャンピオンシップ3位の成績を残しました。
出典:honda.co.jp
2020年 レッドブル、アルファタウリ
2020年もホンダはパワーユニット『Honda RA620H』をレッドブルとトロロッソからチーム名称を変更したアルファタウリへ供給しました。
2020年シーズンのF1はフェラーリが低迷していることもあり、レッドブルはメルセデスに次ぐ成績を残しています。メルセデスのパフォーマンスが非常に優れているものの、第5戦の70周年記念グランプリではレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手がメルセデスを制して優勝しました。
また、イタリアグランプリではアルファタウリのピエール・ガスリー選手がセーフティカーや赤旗によるレースの中断といった混乱が多く、運も必要なレースでしたが、実力で勝利を挙げました。
第10戦ロシアグランプリ終了時点でレッドブルはコンストラクターズチャンピオンシップで2位を確保しており、ドライバーズチャンピオンシップにおいても3位のマックス・フェルスタッペン選手が2位のバルテリ・ボッタス選手に迫っています。
レッドブルとトロロッソへのパワーユニット供給は2021年まで決定しており、2022年以降のパートナーシップの継続が期待されていました。ところが、今回のホンダのF1参戦休止の発表によって、その関係は2021年のシーズンを最後に終了することになりました。
出典:honda.co.jp
まとめ
マクラーレンとの失敗はマクラーレンが提唱した『サイズゼロ』コンセプトに無理があったと言われています。パワーユニットのサイズを極力コンパクトに設計し、マシンの空力性能を向上させるというものでした。この『サイズゼロ』コンセプトをホンダが否定できなかったことが、初期のパフォーマンス不足と信頼性の低さにつながったのではないかと言われています。
2018年からトロロッソとの新たなパートナーシップをスタートしたことによって、ホンダ主導で自由に開発を進めることができるようになったと言います。これがパフォーマンス改善の要因と言われています。
レッドブルとのパートナーシップは1年目から3勝を挙げ、2020年シーズンはメルセデスに次ぐコンストラクターズチャンピオンシップ2位をキープしています。レッドブルにとってはルノー時代と比較して大きなパフォーマンスの進歩は実現できていませんが、将来を信じてのホンダパワーユニットの選択だったのだと思います。
タイトルに向けてこれからというところでの参戦休止発表はとても残念ですが、企業経営を考慮した上で決定されたことなので仕方がありません。また、ホンダ社内には巨額の投資の割に技術力の低さしかアピールできないF1活動に反対する声が常に消えなかったようです。
レッドブルがホンダのパワーユニット開発部隊を買収するとか、無限ホンダが復活するのではないかとか様々な噂が流れ始めましたが、第4期F1の技術がホンダの将来の技術に生かされなければ、今回のF1活動の意味が全く無いと考えます。
2021年シーズン終了までの残りのレースも期待したいと思います。
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