サーキットでモータースポーツ観戦したり、TVでレース中継を観ていると、コース脇の小屋からフラッグを振ったり、コース脇に止まってしまった車両の撤去作業をしたりするオレンジ色のツナギを着た係員がいるのが分かります。
この係員は『レースオフィシャル (公認審判員)』と呼ばれ、レースを安全かつ公平に運営する上で欠かせることができない存在です。
出典:youtube.com
セクション
レースオフィシャルはフラッグを担当するコースオフィシャルが有名ですが、様々なセクション(役割)があります。
どのセクションもレース運営に欠かせることができない役務です。競技長は安全かつ公平にレースの運営ができるように各セクションを統括します。
コース
コース脇にある『オブザベーションポスト』と呼ばれる小屋に配置され、競技車両に対してフラッグを振ったり、車両同士の接触や黄旗区間中での追い越しなどの違反行為の監視などを行います。
レースの終了を知らせるチェッカーフラッグを振るのもコースの担当になります。オブザベーションポストはレースコントロールと電話や無線でつながっており、コース上での出来事が逐一コントロールタワーへ報告されます。
コースオフィシャルは『コースマーシャル』と呼ばれたりもします。
救急・レスキュー・ファイヤー
レース中にクラッシュやトラブルなどでストップしてしまった車両の撤去作業を行います。イエローフラッグが振られている時間が長いとレース展開に影響を及ぼすため、迅速な作業が求められます。
時には負傷して動くことができないドライバーを救出したり、車両火災の消火を行うこともあるため、非常に重要な役務です。
ピット・グリッド・パドック
ピットレーンの制限速度をオーバーした車両の監視をしたり、レース開始前には、競技車両が安全かつスケジュール通りにコースインできるように誘導します。
レーススタート時にはスタート審判員としてジャンプスタートの判定を行います。
技術
レース前後に競技車両が技術規則に則って正しく作られているかどうかの確認を行います。
規則に従って全ての項目のチェックを行うには時間が足りませんので、車両重量や最低地上高などの測定といった簡易な確認となります。必要あれば車両をバラしての確認を実施することもあります。
ピットイン作業中の違反の監視やレース中に使用するタイヤのマーキング作業も技術員の担当です。
計時
公式予選や決勝などの各セッションが終了すると、セッションごとにレースリザルトを作成し発行します。
現在のモータースポーツでは車両に取り付けられたトランスポンダーと呼ばれる発信機とサーキットに埋め込まれた計測装置によってラップタイムや周回数などの情報が自動的に計測されています。
万一、システムがトラブルなどによって止まってしまったときのことを考慮して、レース中は計時委員が人力で周回数のなどの情報を記録します。レースが終わったら速やかにレースリザルトの作成を行います。
事務局
エントラント(チームやドライバー)からのレース参加の申し込みや問い合わせ、ときにはクレームの対応を担当します。
レース当日には参加受付やタイム計測用のトランスポンダーの配布をしたり、レース前に開催されるドライバーブリーフィングの段取りをしたりします。計時員が作成したレースリザルトの配布も事務局が行います。
コースインスペクション
コースインスペクションとはレース審査委員会がレースを安全に運営するために、コース各所に配置されているコースオフィシャルやレスキューの人数・配置場所が適切かどうか、フラッグは見やすく振られているかなどをコースを1周し確認を行います。
コースインスペクションが行われている間、オブザベーションポストではフラッグが振られ、コースサイドにはコースオフィシャルが整列し、レース審査委員会の車両が通過する際にはサムアップで応えます。
コースインスペクションは最初のセッションが行われる前の早朝に実施されることが多いので、朝早くからサーキットでレース観戦していると見ることができます。
特にF1開催時の鈴鹿サーキットやMotoGP開催時のツインリンクもてぎのコースインスペクションではコースマーシャルがパフォーマンスを行うことで有名です。
レースオフィシャルがサーキット上で主役になる数少ない場面です。
レースオフィシャルになるためには
レースオフィシャルはサーキットの職員ではなく、基本的にはレースが開催されるときにだけ活動を行うボランティアとなります。
それぞれ本業が別にあり、レースが開催される時に集まります。レースが好きで、レースオフィシャルをやりたいという意思がある人であればJAF公認審判員ライセンスを取得し、誰でもレースオフィシャルを始めることができます。
レースオフィシャルは観客が入れないコースサイドで走行中のレース車両を間近で見たり、時にはレーシングドライバーと会話をすることもあります。
レース運営に深く携わることができるためモータースポーツ好きにはたまりませんが、朝早くから夜遅くまでの活動となり、休憩もほとんど取ることができないため身体的には楽ではありません。当然ですが与えられた仕事を責任を持って行わなければなりません。
レースが好きで、レース運営を支えたいという想いがなければ活動を長く続けることはできません。また、どのサーキットにおいても地方選手権などの小さなレースからレースオフィシャルとして参加して頂ける方を歓迎していますのでF1やSUPER GTなどのビッグレースだけやりたいという方は向いていません。
レースオフィシャルはサーキットの近隣に住んでいる人が参加していると思われがちですが、サーキットから遠く離れた遠方から参加している人もいます。複数のサーキットでレースオフィシャル活動を掛け持ちしている人も少なくはなく、全国各地のサーキットへ遠征する人もいます。
このようなレースオフィシャルによって日本のモータースポーツが支えられています。
JAF公認審判員ライセンス
レースオフィシャルとして活動するためにはJAFが発行している競技ライセンスが必要となります。
ドライバーとしてレースに参戦するためのドライバーライセンスとは別に競技役員ライセンスが存在します。ライセンスにはコース、技術、計時の3種類があり、セクションによって必要となるライセンスが異なります。
出典:jaf.or.jp
ライセンスの等級
ライセンスの等級はコース、技術、計時それぞれにおいてA1級、A2級、B1級、B2級、B3級の5種類があります。各等級でできることは以下のように定められています。
- A1級
すべての競技における監督および役務の執行ができる。 - A2級
「準国内競技」までの監督およびすべての競技における役務の執行ができる。 - B1級
レースを除く競技会における監督およびすべての競技における役務の執行ができる。 - B2級
レースを除く競技会において「準国内競技」までの監督およびすべての競技における役務の執行ができる。 - B3級
「国内競技」までの役務の執行ができる。
例えばF1で競技長を務めるためにはA1級の公認審判員ライセンスが必要になります。A1級、A2級はレース、B1級、B2級はラリーやジムカーナなどのタイムを競うスピード競技で必要となります。公認審判員ライセンスはB3級を取得するところから始まります。
B3級ライセンスの取得は定期的に開催されている講習会に参加するだけで取得できます。講師の方から説明を受けるだけの内容なので誰でも取得することができます。国内B級ドライバーライセンス取得のための講習と内容は同じなので、ドライバーライセンスと同時に競技役員ライセンスを取得することも可能です。
B3級からスタートして他のライセンスにステップアップするには、レースオフィシャルとして活動を行い、ライセンス発行時に配布される役務カードにハンコを押してもらい経験を積む必要があります。定められた期間内に規定数のレースに参加した上で、JAFライセンス講習会に参加することでA1級やA2級へステップアップすることができます。
レースオフィシャルの待遇
レースオフィシャルはサーキットの職員ではありませんので基本的にボランティアとしての参加となります。
ただし、レースオフィシャルとして活動を行うとR項と呼ばれる交通費を含んだ手当が支給されるため、活動費用は全て個人負担となるわけではありません。また、活動中の食事は基本的に全て支給され、遠方からの参加の場合には無料で宿泊先を用意してもらえる場合もあります。
サーキットによっては役務に必要なオレンジツナギやヘルメットの貸し出しを行ってもらえます。レースオフィシャル活動で得たR項で少しずつ必要な装備品を揃えていけば負担にもなりません。
ただし、モータースポーツには危険が伴いますので、万一、事故に巻き込まれるなどして怪我を負ってしまったり、死亡してしまった場合には全て自己責任となります。了承した上での参加となり、誓約書にもサインをする場合もありますので、生半可な気持ちで参加しないよう注意してください。
主要サーキット問い合わせ先
レースオフィシャルとして活動を始めようとしてもどのように始めたら良いのか分からないと思います。
どのサーキットでもレースオフィシャル担当がいて、Webで探すよりも詳しい情報を教えて頂けるはずですので、まずは電話やメールなどで問い合わせてみてはいかがでしょうか?